挙式
「ねぇ、シよ?」
キスをした流れでカラ松に言う。
「…何を?」
「セックス」
「え」
なんで、とカラ松が動揺した声を出した。カラ松の顔がみるみるうちに赤くなってゆくのがわかる。純情だねぇ、本当に。俺はカラ松の腹の上に跨ってカラ松の頭を左右から両手で押さえる。カラ松の視線を無理やり俺に向けさせる。カラ松の瞳は揺れていて、俺と目を合わせようとはしない。
「シようよ」
「…」
「駄目?」
「…駄目だ」
「どうして」
「…じきに寒くなる。服を脱いだら風邪をひいてしまうだろう」
「ヤッてたら暑くなるんじゃない?」
「それでも駄目だ」
「なんで」
「ゴムも無い」
「男同士なんだから子どもなんて出来ないよ」
「それでも駄目だ」
絶対、駄目だ。
そこまで強く言われてしまうとお兄ちゃんとしてもこれ以上は強いれないよね。
正直言って、カラ松は俺がお願いすればすんなりと了承してくれると思っていた。変なところで頑固なんだよなぁと思う。このまま駄々をこねて無理矢理そういう方向に持っていってもいいんだけれど、駄目だと拒否されたにもかかわらずにヤるってのは俺からしてもあまり心持ちの良いものではない訳で。
はあぁ、と大きく溜息を吐いて俺はカラ松の肩に額をあてた。
「あんね、お前は知ってると思うけど」
首筋に顔を埋めたまま、俺は続ける。カラ松は何も言わない。
「お兄ちゃんめちゃくちゃ寂しがり屋だからさ」
「…」
「お前が俺から離れていっちゃうのが超怖いの」
ああ、かっこ悪いなぁ。うん、今の俺、超かっこ悪い。女々しいし、重いし、ってか束縛?本当最悪。
カラ松はしばらく黙って、俺の後頭部に手を乗せて、軽く撫でた。海水で髪はすっかり軋んでいるから、カラ松の指に髪が引っかかるたびに少し痛い。
「…昨晩も、同じ事を考えていたのか?」
「…昨晩どころじゃない、ずっと思ってる」
「そうじゃない…昨晩お前、寝ている俺の腹の上に跨って泣いていただろう?」
「…はぁ?」
まさか1日に2度こんなことを言われるとは思っていなくて、俺は勢いよく顔を上げた。よほど驚いた顔をしていたらしい。カラ松は「すまない、寝たふりをするつもりはなかったんだ」と謝罪をした。
「そうかおそ松、お前は俺がお前の前から消えるのが嫌だったんだな」
納得したように微笑むカラ松。
同時に俺は、またカラ松の記憶が消えていたのだということに気がつく。
今のカラ松の時間は、俺が家出をする直前の頃にまで戻っていた。